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セルフライナーノーツ Vol.10

Disorder Circulation編 (3)

これまではフリーテーマでやっていたが、コンセプトを定めたアルバムを作ってみた時期。

1013.25 (2010)

急に凄いデザイン頑張りだすやん。

著しくググラビリティに欠如したアルバム名は1気圧が1013.25ヘクトパスカルというところから来ている。タイトルはぎりぎり大気圏内なのに楽曲名は軒並み衛星や小惑星から来ているのは、大気圏を出発点として宇宙を目指すというようなコンセプトだったことに依る。

本作の制作を終えた後、「このくらいの曲を作れるようになったんだな」という妙に感慨深い感情があった。

1. Ceres

とうとうアルバム1曲目に居座るまでになった恒例の低速ブレイクビーツシリーズ。これまでよりストリングスが重厚になり、よりドラマ思考なピアノを重用した。無線を模したサンプリングのSEなど、モチーフに纏わる設定を自分なりに織り込んだ後が垣間見える。

タイトルは小惑星番号1、ケレスから。当時はNASAの探査機ドーンが準惑星ケレスへ周回探査を行うのに向かっているという時代背景があった。そのため、普段の後ろ向きな音楽を下地にしつつも、僅かながらに前を向いている。

2. Astraea

このサークルにしてはかなりBPM高め(といっても138程度だが)の真っ当なテクノ。旋律よりもリズムで聞かせるということを狙いとしていて、他の楽曲と比べても一際旋律のバリエーションを絞った。Stutter Editの歪み方がトラックを書き出すたびに変わるため、良い塩梅になるまで何度も書き出し直しをした記憶がある。本来は自身で制御すべきところを偶然性に依存していたのを何か都合のいいように解釈していたに他ならない。フレーズを削減してリズムで勝負するのは、普通に曲を作るより当然ながら遥かに難しく、色々サボっていた所をかなり頑張らざるを得なかった。

タイトルは小惑星番号5、アストラエアから。テクノ色が他の楽曲と比べても比較的濃いのは、旧スクウェアが制作した「アインハンダー」の機体名に「アストライアー FGA MK.I」があったことに起因しているかもしれない。デフォルト機体のエンディミオンと異なりガンポッドが切り替え式から上下に2門同時装備になったテクニカルな機体だった。

6. Iris

「Astraea 」ですっかり気を良くして、よりスペイシーな方面へ傾倒した。サイドチェインを多用したプログレッシブ寄りのトランス。とうとうトランス成分を前面に持ってきた曲を出した。この曲もこれまでよりはリズム隊の重要性を再認識して、普段より頑張っていたように思う。音色もフレーズも全然関連はないが、ブレイクからのパンフルートを用いた主旋律はTaQが個人サイトを運営していた時代に公開されていた「…and then」という曲で、禁欲的なテクノに叙情的な哀愁のあるフレーズは非常にマッチするというのがかなりヒントになっていた。

タイトルは小惑星番号7、イリスから。ラグナロクオンライン時代に所属していたサーバがIrisだったこととは特に関係はない。

Anti Gravitized Soundtracks (2011)

何を血迷ったのか、古くはレミングスやデストラクション・ダービーなどで知られるPsygnosis、現在はStudio Liverpoolが開発している「wipEout」という反重力レーシングゲームを題材とした、ただでさえ絶滅危惧種のリスナーを置いてきぼりにしたコンセプトアルバム。中でもゲーム内の1モードであるZONEモードをフューチャーしており、カスタムサウンドトラックに用いて楽しむことを主眼としている。トラック名にそれぞれイメージしたスピードクラスが設定されていて、スピードクラス表記については当時最新作であったWipeout HDに準拠。

wipEoutとは

wipEoutは反重力という特色から来る独特の操作感、かつてはデザイナーズ・リパブリックがインターフェースやゲーム内デザインを担当したことや、初期ではProdigy、Sasha、UnderworldやThe Chemical Brothers、後期作ではNoisiaやCraftwerkなどといった大物クラブアーティストの楽曲をサウンドトラックとして大々的にフィーチャーしたことでも有名。過去には国内の最大規模レイヴイベント「WIRE」とのタイアップもあった。

ZONEモードはWipeout Fusionで初実装された、アクセルが常時ベタ踏みかつ機体の最高速度が10秒ごとに際限なく上昇し続ける中でクラッシュまでの走行スコアを競うサバイバルモード。PSP版Wipeout Pulseからは、進行度に伴ってスピードクラスが設定されるようになった。通常のモードと異なりコースの色彩が失われて進行度に伴って色調が変わり、コースや外壁にはスペクトラムアナライザが表示されるようになるほか、「ジャンプ中はBGMにフィルタがかかる」といったゲーム仕様もあわさって、音楽体験との相性の良さは唯一無二のものである。

ただひたすら走るだけやないか、と言われてしまえばその通りなのだが、進行するに連れ最高時速はゆうに1000kmを超え(1500kmくらいまでは確認したが上限がいくつかは不明)、マシンの制御もままならない状態で10分以上孤独に己と戦い続ける修行モードである。瞬きすら命取りだし、少しの起伏でもマシンは勢いよく空を舞う。そんな常識を逸脱したスピードでコースをひたすら走り続ける行為から得られるアドレナリン体験は、実際にプレイしてみると想像よりも遥かに他では得難い体験であると思う。

現在はPlayStation4/5にてwipEout Omega Collectionが入手可能。リマスターされたHD/HD Fury/2048が一挙に遊べるのに異常にリーズナブルな価格設定がされているので、レースゲームというカテゴリで括るにはあまりにも尖りすぎている作品ではあるが、機会があれば是非触れてみていただきたい。

ジャケットはWipeout HDのキャンペーンモード中のUIを模したもの。余談だが弊インスタンスに設定されているマニュアル・コンディショナルロールはすべて同作が元ネタである。とはいっても自身が引きこもる用のインスタンスで新規登録を解放していないので、ロールを細分化することに全く意味はなく、ただの自己満足である。

ZONE表示は本作を模した素材を頑張って全部作った。

ZONE表示は本作を模した素材を頑張って全部作った。

完全に早口なオタクみたいな勢いで書いてしまった。

1. Logic Structure [flash]

Zoneモードの最初のスピードクラス、つまりウォームアップということでゆったり目で余裕を感じられるマイルドなテクノ。まだ旋律がプレイ体験を阻害しない領域なので、他のトラックと比べると旋律が強めになるが、インゲームSEを考慮してリズム隊は少し控えめにした。他の曲ではその考えをもう忘却したらしい。

後半のフレーズはFerry Corstenの「Kyoto」のオマージュ。

3. Tachyon [phantom]

BPMも上がり、テッキーなハードダンスなるジャンルに手を出した。深度が増して少しテンションが上り始めたことの表れのつもりだったように思う。調子に乗ってダンサブルな感じにしすぎたので、grayからは頭でも打ったのかと心配された。

4. Sirius 3000 [zen]

無機質なテクノ。ZEN到達前後で色彩がモノクロームになる演出があるのを表現したかった意図がある。静と動、そしてその仲介をする空白の部分に重きを置いていた。シンセの波形音だとわざとらしすぎたため一見マッチしないように思えるピアノを入れるにあたって、ピアノがウェットになりすぎないよう、少し潰してピンポンディレイで極限感を出している。32小節単位だと型にハマりすぎていたので、24小節で構成するゾーンを入れたり、一丁前にトリッキーな試みをしていた。

後に商業作品の劇伴に携わった際にノンビートまたはエレトロニカ楽曲において、年号違いのタイトルがついた兄弟作が何作かある。

5. Superluminal [subsonic]

Zen、Super Zenを超えると大分制御も覚束なくなってきてアドレナリン感が出てくるので、楽曲もそれを阻害しないような形を狙ってコード展開を廃してスタッターでの演出に傾倒した。このあたりになると前述の通りマシンが容易に宙を舞い楽曲に激しくフィルタがかかるので、偶然かかったフィルタが格好よく聞こえるのを期待したトラックメイキングになっているので楽曲の構成自体はあまり奇をてらわずにとても素直な作りになっている。

このアルバムは制作中もラフを書き出しては実際に走行してみてマッチするかを見ながら進めていたが、Subsonicあたりとなるとゲーム内で到達するまでに10分近くかかるので非常に制作効率が悪かった。